東京地方裁判所 昭和62年(ワ)8795号 判決 1988年11月24日
原告
増子宏喜
ほか二名
被告
程塚満雄
ほか一名
主文
一 被告らは、原告増子宏喜に対し、各自金五八六五万九九八一円及び内金五四六五万九九八一円に対する昭和六二年七月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告増子愛喜雄に対し、各自金二一五万円及び内金二〇〇万円に対する昭和六二年七月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは、原告増子保子に対し、各自金二一五万円及び内金二〇〇万円に対する昭和六二年七月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
六 この判決は、第一ないし第三項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告増子宏喜(以下「原告宏喜」という。)に対し、各自金一億三五九八万四八二七円及び内金一億二五九八万四八二七円に対する昭和六二年七月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告増子愛喜雄(以下「原告愛喜雄」という。)に対し、各自金六七〇万円及び内金六二〇万円に対する昭和六二年七月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告らは、原告増子保子(以下「原告保子」という。)に対し、各自金五五〇万円及び内金五〇〇万円に対する昭和六二年七月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件事故の発生
(一) 日時 昭和五八年一〇月一八日午後六時ころ
(二) 場所 東京都港区芝浦三丁目一一番七号先交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 加害車(1) 自動二輪車(以下「加藤車」という。)
右運転者 被告加藤弘一(以下「被告加藤」という。)
加害車(2) 普通乗用自動車(以下「程塚車」という。)
右運転者 被告程塚満雄(以下「被告程塚」という。)
(四) 被害者 原告宏喜
(五) 態様 前記場所で加藤車と程塚車が衝突し、加藤車に同乗していた原告宏喜が負傷した。
2 責任原因
被告加藤は、加藤車を保有し自己のため運行の用に供していたものであり、被告程塚は、程塚車を保有し自己のため運行の用に供していたものである。
3 原告宏喜の損害
(一) 原告宏喜は、本件事故のために胸髄損傷、右上腕骨骨折等の傷害を負い、右受傷の結果、両下肢運動機能全廃、膀胱直腸障害の後遺障害が残つた。
(二) 右受傷に伴う損害の数額は次のとおりである。
(1) 入院雑費 金六八万一〇〇〇円
一日当たり金一〇〇〇円、入院日数六八一日分。
(2) 入院付添費 金二四〇万円
一日当たり金四〇〇〇円、付添日数六〇〇日分。
(3) 歩行器具の購入費 金一四万八七七〇円
<1> 購入済み分(昭和五九年購入) 金二万四四〇〇円
<2> 将来の購入費 金一二万四三七〇円
歩行器具の耐用年数は四年であるから平均余命期間(昭和五九年から四八・八六年)中に少なくとも一二台を購入しなければならず、四年ごとに<1>のものと同等の器具を買い替えると、中間利息を控除した一二台分の購入費の合計額は金一二万四三七〇円となる。
(4) 改造自動車購入費 金五四〇万六〇四四円
<1> 購入済み分(昭和六一年購入) 金二一五万九〇五〇円
<2> 将来の購入費 金三二四万六九九四円
自動車の耐用年数は一〇年を超えないから平均余命期間(昭和六一年から四七・五二年)中に少なくとも四台を購入しなければならず、一〇年ごとに<1>のものと同等の自動車を買い替えると、中間利息を控除した四台分の購入費の合計額は金三二四万六九九四円となる。
(5) 家屋改造費 金七四一万四〇〇〇円
両下肢運動機能全廃の後遺障害のため、エレベーターの設置等家屋の改造が必要である。
(6) 治療費 金一五一万六〇三五円
<1> 既払い分 金四四万三二三五円
<2> 将来の治療費 金一〇七万二八〇〇円
(7) 将来の介護料 金二六二五万二二六〇円
両下肢運動機能全廃の後遺障害のため、将来に亙って近親者の介護が必要である。退院(昭和六〇年八月二八日)後の平均余命四七・九〇年、一日当たり金四〇〇〇円として、中間利息を控除すると金二六二五万二二六〇円となる。
(8) 逸失利益 金九七一六万六七一八円
<1> 休業損害 金九一八万六三四八円
<2> 後遺障害による逸失利益 金八七九八万〇三七〇円
ⅰ 年収 金五一二万七三六〇円
ⅱ 期間 四〇年間
ⅲ ライプニツツ係数 一七・一五九〇
ⅳ 労働能力喪失率 一〇〇パーセント
(9) 慰藉料 金二五〇〇万円
(10) 弁護士費用 金一〇〇〇万円
4 原告愛喜雄の損害 金六七〇万円
原告愛喜雄は、原告宏喜の父である。
(一) 付き添いのための交通費 金一二〇万円
(二) 慰藉料 金五〇〇万円
(三) 弁護士費用 金五〇万円
5 原告保子の損害 金五五〇万円
原告保子は、原告宏喜の母である。
(一) 慰藉料 金五〇〇万円
(二) 弁護士費用 金五〇万円
6 損害の填補 金四〇〇〇万円
原告宏喜は、損害の填補として自動車損害賠償責任保険から金四〇〇〇万円の支払を受けたので、右金額を原告宏喜の前記損害額から控除する。
よつて、原告らは、被告らに対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、各自、原告宏喜につき前記損害合計金一億三五九八万四八二七円及び弁護士費用を除く内金一億二五九八万四八二七円に対する訴状送達の日の翌日である昭和六二年七月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告愛喜雄につき前記損害合計金六七〇万円及び弁護士費用を除く内金六二〇万円に対する右昭和六二年七月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告保子につき前記損害合計金五五〇万円及び弁護士費用を除く内金五〇〇万円に対する右昭和六二年七月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
(被告程塚)
1 請求原因1及び2の事実は認める。
2 同3の事実について、(一)は認める。(二)のうち、(1)、(2)は否認する。(3)の<1>は認め、<2>は否認する。(4)、(5)は否認する。(6)の<1>は認め、<2>は否認する。(7)ないし(10)は否認する。
3 同4及び5の事実は否認する。
4 同6の事実は認める。
(被告加藤)
1 請求原因1及び2の事実は認める。
2 同3の事実について、(一)は認める。(二)は知らない。
3 同4及び5の事実は知らない。
4 同6の事実は認める。
三 抗弁
(被告両名)
1 損益相殺
原告宏喜は、本件事故につき、健康保険法による傷病手当金として金一六四万三八三二円の給付を、厚生年金保険法による障害厚生年金として昭和六三年二月一日までに金四一七万七六七三円の給付を受けた。
(被告程塚)
2 損益相殺
原告宏喜は、昭和六〇年一〇月一四日から昭和六一年一〇月一三日までの間国立職業リハビリテーシヨンセンターから給与の性格を有する訓練手当合計金一三〇万四五六〇円の支給を受けており、右金額を原告の損害から損益相殺すべきである。
3 自賠法三条但書の免責及び過失相殺
被告程塚は、右折進行するに際し右折通行帯上において停止して対向車線の安全を確認し、かつ、徐行しており、かかる場合に自動車運転者に要求される注意義務に何ら違反していない。本件事故は、被告加藤が、本件交差点は田町駅東口方面への右折車両が多いことを日ごろ熟知し、事故時において程塚車を約九四メートル先の右折通行帯に発見したのであるから、加藤車の速度を減速していつでも停止できるように進行すべきであつたのに、約九四キロメートル毎時の速度で進行しようとし、高速度のためハンドル操作を誤り、加藤車を滑走させて程塚車の左側面に衝突したというものである。
右のとおり、本件事故は、被告加藤の一方的過失により発生したものであり、被告程塚には何らの過失もなく、また、程塚車には構造上の欠陥も機能上の障害もなかつたのであるから、被告程塚は自賠法三条但書により免責される。
仮に被告程塚に過失があつたとしても、本件事故につき被告加藤の過失は極めて大きく、原告宏喜は被告加藤を監督指導すべき立場であるのに加藤車の後部に同乗し、かつ、被告加藤の無謀運転を制止しなかつたのであるから、原告らの損害額を算定するに当たつては、過失相殺ないしその類推、信義則、公平の原則により右の事情を斟酌して損害額を減額すべきである。
(被告加藤)
4 好意同乗
原告宏喜と被告加藤とは常日頃非常に仲の良い友人同士であり、いわば原告宏喜が兄貴分、被告加藤が弟分という関係であつた。本件事故は、錦糸町にある自動車販売店に原告宏喜が購入した自動車を引き取りに行くため、原告宏喜の要請で被告加藤が加藤車に原告宏喜を同乗させて走行中に発生したものである。したがつて、原告らの損害額は相応の減額がなされるべきである。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実は認める。
2 同2の事実について、原告宏喜が昭和六〇年一〇月一四日から昭和六一年一〇月一三日までの間国立職業リハビリテーシヨンセンターから訓練手当合計金一三〇万四五六〇円の支給を受けたことは認める。
3 同3、4の事実は否認する。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1及び2の事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、被告程塚の自賠法三条但書による免責の抗弁について検討する。争いのない請求原因1の事実に成立に争いのない甲第一ないし第一四号証及び乙イ第五号証を総合すれば、次の事実を認めることができる。
本件事故現場は、海岸方面から八千代橋方面に向かう車道幅員約一八・一メートル、片側三車線(以下、両車線とも、左側から「第一車線」、「第二車線」、「第三車線」という。)の道路(以下「本件道路」という。)と地評会館方面から田町駅東口方面に向かう車道幅員約一二メートル、片側二車線の道路が交差する東京都港区芝浦三丁目一一番七号先の信号機により交通整理の行われている交差点(本件交差点)であり、両道路ともアスフアルト舗装され平坦で、本件事故当時路面は乾燥していた。本件道路は最高速度が五〇キロメートル毎時に制限されている。
被告程塚は、程塚車を運転し本件道路南西行き車線を海岸方面から八千代橋方面に向かつて進行し、本件交差点に差し掛かり田町駅東口方面に右折しようとしたが、対面信号機が赤であつたため、南西行き車線第三車線の交差点手前で一旦信号待ちをし、右信号が青に変わつたので発進右折する際、本件道路北東行き車線第三車線を本件交差点を直進するため進行してきた加藤車を発見することなく発進し、約二〇キロメートル毎時の速度で右折進行したところ、程塚車左側面に加藤車が衝突した。
被告加藤は、加藤車を運転し本件道路北東行き車線を八千代橋方面から海岸方面に向けて進行し、直進するため本件交差点に六〇ないし七〇キロメートル毎時の速度で進入したところ、前記のとおり程塚車と加藤車が衝突した。また、本件事故当時、加藤車は前照灯を点灯していた。
原告宏喜本人尋問の結果及び被告加藤本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は採用することができない。
ところで、車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は左折しようとする車両等があるときは、当該車両の進行妨害をしてはならない(道路交通法三七条)のであつて、自動車の運転者は、交差点を右折するに際しては、同交差点に直進又は左折のため進入してくる車両の有無、動静を確認し、同車両の進行を妨害しないように進行すべき注意義務があるものというべきであるところ、前認定の事実によれば、被告程塚は前記注意義務を怠り本件交差点に進入してくる車両の有無、動静を十分確認することなく漫然約二〇キロメートル毎時の速度で右折進行したため本件事故を惹起したものということができる。
右によれば、被告程塚が程塚車の運行に関し注意を怠らなかつたものということはできないから、その余の点につき考慮するまでもなく、被告程塚の前記主張は理由がないことが明らかである。
三 原告宏喜の損害について
1 請求原因3(一)の事実は当事者間に争いがない。
2(一) 入院雑費 金六八万一〇〇〇円
成立に争いのない甲第二七号証及び原告宏喜本人尋問の結果によれば、原告宏喜は、前記請求原因3(一)の受傷のため昭和五八年一〇月一八日から昭和六〇年八月二八日までの六八一日間国立療養所村山病院に入院し、その間一日金一〇〇〇円を下らない雑費を支出したものと認められる。
(二) 入院付添費 金二四〇万円
成立に争いのない甲第二九号証及び原告愛喜雄本人尋問の結果によれば、原告宏喜の前記入院期間中のうち少なくとも六〇〇日間は原告保子又は原告愛喜雄が原告宏喜に付き添つて身のまわりの世話をせざるをえず、これに伴う損害は、諸般の事情を考慮し一日当たり金四〇〇〇円を下らないものと認めるのが相当である。
(三) 歩行器具の購入費 金一〇万五五五一円
原告宏喜が昭和五九年に購入した歩行器具の代金が金二万四四〇〇円であることは原告らと被告程塚との間に争いがなく、原本の存在及び成立に争いのない甲第一五号証の一、二及び原告愛喜雄本人尋問の結果によれば、原告宏喜は歩行器具購入費の自己負担分(身体障害者福祉法三八条一項の規定により支払を命ずる額)として昭和五九年九月四日東京都品川区福祉事務所長から金二万四四〇〇円の支払を命ぜられ、その後同額を支払つたことが認められる。
そして、成立に争いのない甲第二八号証及び原告宏喜本人尋問の結果によれば、右歩行器具の耐用年数が四年であること、原告宏喜はその後遺障害のため生涯歩行器具を要することが認められる。
そうすると、原告宏喜が最初に歩行器具を購入したのが前記のとおり昭和五九年九月であるから、原告宏喜は、昭和五九年から平均余命である昭和一〇八年(年未満切り捨て)までの四九年間、四年ごとに歩行器具購入のため金二万四四〇〇円を支出しなければならないことになる。そこで、右損害の本件事故当時の現価を算出するに際しては、右平均余命の間、便宜、毎年金二万四四〇〇円の四分の一ずつを支出するものとして、ライプニツツ方式により中間利息を控除し歩行器具購入費用の本件事故当時の現価を算出すると、次のとおり金一〇万五五五一円となる。
24,400÷4×(18.2559-0.9523)≒105,551
(四) 障害者用自動車改造費用 金三一万〇六〇〇円
成立に争いのない甲第一六号証及び原告愛喜雄本人尋問の結果によれば、原告宏喜は昭和六一年一月身体障害者用の改造自動車を購入し、その費用として金二一五万九〇五〇円を支払つたこと、そのうち自動車を身体障害者用に改造するために要する費用は約二〇万円であることが認められる。
そうすると、原告宏喜は、昭和六一年から前記昭和一〇八年までの間一〇年ごとに新車を購入するものとして、その都度、障害者用に改造する費用金二〇万円を支出しなければならないことになる。そこで、歩行器具購入費用の現価算定の場合と同様の方式に従い、右平均余命の間、便宜、毎年金二〇万円の一〇分の一ずつを支出するものとして、ライプニツツ方式により中間利息を控除し障害者用自動車改造費用の本件事故当時の現価を算出すると、次のとおり金三一万〇六〇〇円となる。
200,000÷10×(18.2559-2.7232)=310,600
なお、現在の我が国においては自動車の利用が一般に高い率に達しているのであるから、交通事故による損害としては、仕様が特別であるために出費した余分の費用がこれに当たるものとするのが相当であり、障害者用自動車購入費用の全部を交通事故による損害と認めることはできない。
(五) 家屋改造費 金四〇〇万円
原本の存在及び成立に争いのない甲第一七号証の一、成立に争いのない同号証の二、被告加藤との間で成立に争いがなく原告愛喜雄本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二二号証の一ないし六及び原告愛喜雄本人尋問の結果によれば、原告宏喜の日常生活の支障を少なくするために、車椅子用斜行型昇降機の設置等自宅の改造工事をせざるをえず、その費用として、合計金七四一万四〇〇〇円を支払つたことが認められるところ、右金額のうち本件事故と相当因果関係のある損害としては金四〇〇万円を相当と認める。
(六) 治療費 金四四万三二三五円
本件事故による受傷の治療のため、原告宏喜が支払つた治療費の額が合計金四四万三二三五円であることは、被告程塚との間においては争いがなく、被告加藤との間においては原本の存在及び成立に争いのない甲第三〇号証の一、二及び成立に争いのない甲第三一号証の一、二によりこれを認めることができる。しかしながら、将来の治療費についてはこれを認めるに足りる証拠がない。
(七) 将来の介護料 認められない。
前記争いのない請求原因3(一)の事実に原本の存在及び成立に争いのない甲第二〇号証、成立に争いのない甲第二八号証及び原告宏喜本人尋問の結果を総合すると、原告宏喜は、前記後遺障害のため公共の交通機関を利用する場合などには他人の介護が必要であるが、自動車を自由に使用することができ、車椅子を使用すれば自力の移動も可能であることが認められ、右によれば原告宏喜の日常生活における不都合が極めて大きいことは肯認できるものの、後記のとおり、生涯労働能力が全くないものとは言い切れないのに労働能力喪失率を一〇〇パーセントとして後遺障害による逸失利益を認容する以上、特に将来の介護料を認めなければならないものということはできない。
(八) 逸失利益 金七六五四万一一〇〇円
前記甲第二〇号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一九、第二三、第二四号証並びに原告宏喜及び原告愛喜雄各本人尋問の結果によれば、原告宏喜は、昭和三六年五月二〇日生まれの男子で、国士館大学を中退し、本件事故当時東京運輸株式会社に運転手として勤務しながら、父である原告愛喜雄が経営する嵯峨工業株式会社にも取締役として勤務し、両社から給与を得ていたものであるが、前記受傷のため本件事故の翌日である昭和五八年一〇月一八日から右勤務をいずれも休業せざるをえなかつたこと、症状固定後も、前記後遺障害のため現在に至るまで就業できていないことが認められる。ところで、右原告宏喜の後遺障害の内容及び程度によれば、現在及び将来の労働・福祉環境に照らし、原告宏喜が生涯に亙つて全く働くことができないものとは断定できないけれども、他方将来に亙る労働能力は甚だ不確定であり、結局その労働能力を一〇〇パーセント喪失したものとして、後遺障害による逸失利益を算定するのが相当である。そこで、賃金センサス昭和六二年第一巻第一表産業計、企業規模計、男子労働者学歴計の全年齢平均賃金年額金四四二万五八〇〇円を基礎として、原告宏喜が稼働可能と考えられる六七歳までの四一年間の逸失利益(休業損害を含む。)の本件事故当時の現価をライプニツツ方式により中間利息を控除して求めると、その金額は次のとおり金七六五四万一一〇〇円となる。
4,425,200×17.2943≒76,541,100
(九) 慰藉料 金一六〇〇万円
原告の受傷の内容、治療経過、後遺障害の内容、程度等諸般の事情を総合すれば、原告に対する慰藉料としては金一六〇〇万円をもつて相当と認める。
(一〇) 損害の填補 金四五八二万一五〇五円
請求原因6の事実及び抗弁1の事実はいずれも当事者間に争いがない。
なお、原告宏喜が国立職業リハビリテーシヨンセンターにおいて訓練期間中支給を受けた訓練手当合計金一三〇万四五六〇円(原告宏喜が右支給を受けた事実は当事者間に争いがない。)は、国立職業リハビリテーシヨンセンターに対する調査嘱託の結果(六三職リハ収第一三七号)によれば、雇用対策法一三条に基づき支給された職業転換給付金であると認められるところ、同条によれば、職業転換給付金は、国及び都道府県が労働者がその有する能力に適合する職業につくことを容易にし、かつ、促進することを目的として求職者等に対して支給するものであつて、給与としての性格を有せず、また損害填補の性格も有しないから、これを原告宏喜の損害賠償額から控除すべきではなく、被告程塚のこの点に関する損益相殺の主張は理由がないものといわなければならない。
四 原告愛喜雄及び原告保子の損害について
(一) 付き添いのための交通費 認められない。
前記のとおり、原告宏喜が入院中の入院付添費を一日当たり金四〇〇〇円の定額で認容する以上、付き添いに当然に伴う費用は右金額の中に考慮されているものであり、これとは別に付き添いのための交通費を認めることはできない。
(二) 原告愛喜雄及び原告保子の慰藉料 各金二〇〇万円
原告宏喜及び原告愛喜雄各本人尋問の結果によれば原告愛喜雄及び原告保子は原告宏喜の両親であることが認められるところ、前認定の事実によれば、本件事故の結果原告宏喜には極めて重度の後遺障害が残り、生涯に亙つて重度の身体障害者として不自由な生活を余儀なくされたのであつて、これにより両親である原告愛喜雄及び原告保子が受けた精神的苦痛は、原告宏喜が生命を害された場合に比して著しく劣らない程度のものであると推認することができる。そして、原告宏喜と原告愛喜雄及び原告保子との身分関係、原告宏喜の治療の経過、後遺障害の内容及び程度その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、本件事故による原告愛喜雄及び原告保子の慰藉料はそれぞれ金二〇〇万円をもつて相当と認める。
五 弁護士費用 合計金四三〇万円
弁論の全趣旨によれば、原告らは本件訴訟を原告ら訴訟代理人に委任し相当額の費用及び報酬の支払を約しているものと認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額に鑑みると、原告らが本件事故による損害として被告らに対し賠償を求めうる弁護士費用の額は、原告宏喜につき金四〇〇万円、原告愛喜雄及び原告保子につき各金一五万円をもつて相当と認める。
六 過失相殺及び好意同乗の主張について
本件事故の態様は前認定のとおりであり、前記甲第八、第一〇号証並びに原告宏喜及び被告加藤各本人尋問の結果によれば、原告宏喜と被告加藤は、東京運輸株式会社に勤務する同僚であつて、本件事故は、錦糸町にある自動車販売店に原告宏喜が購入した自動車を引き取りに行くため、原告宏喜の要請で被告加藤が加藤車に原告宏喜を同乗させて走行中に発生したものであることが認められる。
ところで、民法七二二条二項にいう被害者の過失には、被害者本人の過失のみならず、被害者本人と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にあるものの過失をも包含すると解せられるところ、右認定の事実によれば、原告宏喜と被告加藤は勤務先の同僚というにとどまるのであつて、身分上、生活関係上一体をなすものと認めることはできない。したがつて、被告加藤の過失を理由に過失相殺を主張することは許されず、他に原告宏喜自身に斟酌すべき過失を認めるに足りる証拠はないから、被告程塚の過失相殺の主張は理由がないものといわざるをえない。
また、同乗者自身において事故発生の危険が増大するような状況を現出させたり、あるいは事故発生の危険が極めて高いような客観的事情が存在することを知りながらあえて同乗した場合など、同乗者に事故の発生につき非難すべき事情が存する場合は格別、単に好意同乗の事実だけで被害者の損害賠償額を減額することはできないものと解するのが相当であるところ、本件事故においては、原告宏喜が加藤車に同乗するについて事故の発生につき非難すべき事情を認めることができない。したがつて、被告加藤の好意同乗による減額の主張も理由がないものといわざるをえない。
七 結論
以上の事実によれば、原告らの本訴請求は、被告らに対し、各自、原告宏喜につき前記損害合計金五八六五万九九八一円及び弁護士費用を除く内金五四六五万九九八一円に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六二年七月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告愛喜雄及び原告保子につきそれぞれ前記損害合計金二一五万円及び弁護士費用を除く内金二〇〇万円に対する右昭和六二年七月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、各求める限度において理由があるからこれを認容し、その余はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡本岳)